会社が書かない=申請できない、
ではありません
「労災にするな」「うちは労災を使わない」。そう言われて、そこで止まっている人が多くいます。言われたほうは、逆らったら居場所がなくなると思います。それは自然な感覚です。その上で、条文がどうなっているかだけ確かめてください。会社の同意は、請求の条件になっていません。
今日やること。会社と話す前に
順番を間違えないこと
- ① 記録を時系列で書き出す発生日時・場所・作業内容・報告した相手と日時・目撃者・受診日。話し合いの前にやってください。話したあとだと、言われた内容に引っ張られます。
- ② 会社への依頼を、文字で送る「労災申請に必要な事業主証明をお願いします」。用件はこれだけで足ります。理由を説明する必要も、謝る必要もありません。断られた場合も、断られたことが記録として残ります。
- ③ 労働基準監督署に電話する「会社が労災と認めない」「事業主証明を拒否されている」と、そのまま言ってください。証明が得られない場合にどう提出するかを、そこで確認できます。
- ④ 病院に労災であることを伝える健康保険証のまま治療を続けないでください。→ 治療費は誰が払うのか
③は、会社の許可なく電話できます。「まだ会社と話がついていないのですが」と前置きして構いません。それも含めて相談です。
条文は、断ることを想定していない
「事業主は、保険給付を受けるべき者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければならない」
労働者災害補償保険法施行規則 第23条第2項
「求められたときは、すみやかに証明をしなければならない」。義務として書かれています。
そして、請求そのものは本人が行います。労災保険法第12条の8第2項は、保険給付を「その請求に基づいて行う」としています。請求者は労働者です。会社が請求する仕組みではありません。
傷病手当金と、労災の違い
| 健康保険の傷病手当金 | 労災保険 | |
|---|---|---|
| 事業主の証明 | 申請書に添付しなければならない(健保則第84条第2項) | 事業主には、求められたら証明する義務がある(労災則第23条第2項) |
| 決めるのは | 保険者(協会けんぽ・健保組合) | 労働基準監督署 |
| 会社が書かないとき | 保険者に相談する | 監督署に相談する |
2026年9月15日に e-Gov法令検索で確認しました。どちらも、会社が「認めない」と言えば終わる制度ではありません。
会社が嫌がるのはなぜか
相手の事情が分かると、話し方が変わります。
よくある会社側の事情
- 労災保険料の料率が上がることを心配している(メリット制の対象になる規模の事業場)
- 監督署の調査が入ることを避けたい
- 元請・取引先に知られたくない(建設業などで多い)
- 担当者が手続きを知らない。悪意ではなく、やり方が分からずに止まっている
- 安全管理の責任を問われると思っている
4つ目は珍しくありません。「監督署に聞きながら進めますので、証明だけお願いします」と言うと、進むことがあります。
そして、どれもあなたが治療費と休業分を負担する理由にはなりません。
そのまま使える文面
コピーして送れる1〜2行
- 会社へ:「労災の申請をしたいので、請求書の事業主証明欄の記入をお願いします。いつごろ受け取れるか教えてください」
- 会社へ(断られたあと):「証明をいただけないとのことでしたので、労働基準監督署に相談のうえ手続を進めます」
- 監督署へ:「業務中のけが(または病気)で、会社が労災と認めず、事業主証明も断られています。どう進めればよいか教えてください」
- 病院へ:「仕事中のけがなので、労災で受診したいです。健康保険証で受診した分の切り替えもお願いできますか」
会社に理由を説明する必要はありません。制度上の手続として淡々と進めるほうが、揉めにくくなります。
それでも動かない人へ
証明がもらえないまま止まる必要はありません。
事業主証明が得られない場合の取り扱いは、労働基準監督署が説明します。証明を拒否された経緯(いつ・誰に・どう言われたか)を書いたものを持って相談してください。②で文字にして残しておくのは、このためです。
監督署は、労災に当たるかどうかを調査する立場です。会社の主張と食い違っていることは、相談を妨げる理由になりません。
報復が怖い人へ
「申請したら辞めさせられるのではないか」という不安は、ここでいちばん多いものです。
そして覚えておいてほしいのが、労働基準法第83条第1項です。
「補償を受ける権利は、労働者の退職によつて変更されることはない」
労働基準法 第83条第1項
仮に辞めることになっても、補償を受ける権利は変わりません。「辞めさせられたら終わり」ではないので、申請を諦める理由にはなりません。→ 辞めても続きます
不利益な扱いを受けたと感じたら、その事実も日付つきで記録して、監督署や労働局に伝えてください。
状況別の考え方
「労災を使うと会社が潰れる」と言われた
会社が労災保険に入っていないらしい
正社員ではないので、対象外だと言われた
上司に報告していなかった
会社が「健康保険で治療しろ」と言う
よくある取りこぼし
会社の同意が必要だと思っていた
請求するのは本人です。
口頭で頼んで、断られて終わりにした
文字で残してください。断られた記録が次の手続で役に立ちます。
監督署は会社が行くところだと思っていた
労働者本人が相談できます。
報復が怖くて、記録も取らなかった
記録は、あとで自分を守るものです。出すかどうかは、あとで決められます。
辞めることになるから無駄だと思った
退職によって権利は変更されません(労基法第83条第1項)。
会社の言うとおり健康保険で治療を続けた
あとで返還を求められることがあります。
よくある疑問
事業主証明がない請求書は受け付けてもらえますか
会社に内緒で進められますか
すでに退職してしまいましたが、間に合いますか
弁護士に頼まないと無理ですか
休んでいる間の給料はどうなりますか
このサイトは、労災の手続きが実際にどう動くのかを、労働者災害補償保険法・同施行規則・労働基準法の条文で確かめて書いています。労災に当たるかどうかを決めるのは、会社ではなく労働基準監督署です。ここでは、条文で決まっていて全国どこでも同じ部分と、本人の側から動かせる部分を書きます。病気やけがの症状・診断・治療には触れません。
確認に使った一次情報
- 労働者災害補償保険法 第7条(業務災害・複数業務要因災害・通勤災害)/第12条の8/第12条の4(第三者行為災害)e-Gov法令検索
- 労働者災害補償保険法施行規則 第23条(事業主の助力等)e-Gov法令検索
- 労働基準法 第75条(療養補償)/第76条(休業補償)/第83条(補償を受ける権利)e-Gov法令検索
- 健康保険法 第55条(他の法令による保険給付との調整)e-Gov法令検索
2026年9月15日に e-Gov法令検索で確認した条文です。労災に当たるかどうかの判断と、給付の決定は労働基準監督署が行います。条文で全国共通なのは、誰が請求するのか、事業主に何の義務があるのかまでです。
この会社で働き続けるかどうかは、別に決められます
手続きと、これからの働き方は切り離せます。いま辞める必要も、続ける決意をする必要もありません。どんな選択肢があるかだけ見ておくこともできます。
- いま動かなくて構いません。どんな選択肢があるかを見るだけで終われます
- 在職中でも使えます。会社に知られる仕組みではありません
- 対応範囲は運営元により異なります。掲載内容は公式サイトの公表値です
労災ガイドの記事一覧
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