「口頭で聞くだけ」も、同じ枠に入っている
健康診断書の提出は断りにくい。まして面接で「持病はありませんか」と聞かれれば、答えるしかないように感じます。ところが厚生労働省は、既往歴を確認する行為そのものを健康診断と同じ枠で扱っています。診断書に限らない、ということです。原文で確かめます。
厚生労働省の書き方
公正採用選考特設サイトのQ&Aから、原文を引きます。
採用選考時の健康診断(応募者に既往歴を確認する行為や健康状態の確認・告知書を提出させる行為なども含む。)は、その必要性を慎重に検討し、それが応募者の適性と能力を判断する上で合理的かつ客観的に必要である場合を除いて実施しないようお願いします。
そして14事項の(注3)はこうです。
採用選考時において合理的・客観的に必要性が認められない「健康診断書」を提出させることを意味します。
禁止ではなく「必要性が認められない場合は実施しないよう」という書き方です。条件付きである、というのが正確な読み方です。
何が「含む」とされているか
いちばん効くのは、かっこ書きの部分です。
「健康診断」に含まれるとされているもの(厚生労働省Q&A)
| 行為 | 含まれるか |
|---|---|
| 健康診断を実施する | ◎ 本体 |
| 応募者に既往歴を確認する行為 | ◎ 含むと明記 |
| 健康状態の確認 | ◎ 含むと明記 |
| 告知書を提出させる行為 | ◎ 含むと明記 |
出典:厚生労働省 公正採用選考特設サイト Q&A。「なども含む。」と書かれており、この4つに限られません。
「診断書は求めていない、口頭で聞いただけ」は、この枠の外には出ません。厚生労働省は行為の形ではなく、何を把握しようとしているかで線を引いています。
また14事項の(a)には「家族に関すること(職業・続柄・健康・病歴・地位・学歴・収入・資産など)」とあります。家族の健康・病歴は、本人の適性・能力とは関係のない事項として明示的に挙がっています。
「合理的・客観的に必要」とは
厚生労働省は基準を1つしか置いていません。「応募者の適性と能力を判断する上で」必要かどうかです。
必要性の有無をどう考えるか
個別の事案で必要性が認められるかどうかの判断は、ハローワーク・都道府県労働局が行います。
職務に体力や特定の身体機能が必要な場合
厚生労働省は「真に必要な場合」があることを否定していません。ただし、その場合でも必要性を慎重に検討することを求めています。「念のため全員に」は慎重な検討とは違います。
事務職で全応募者に健康診断書を求める場合
職務との対応が説明できるかどうかが問われます。説明を求めること自体は、応募者の側からできます。
面接の雑談で持病を聞かれた場合
厚生労働省は「既往歴を確認する行為」も含むと書いています。雑談の形をとっていても、把握しようとしていることは同じです。
入社が決まったあとに求められた場合
採用選考時の話とは分けて考える必要があります。労働安全衛生法にもとづく雇入時の健康診断は、別の制度です。→ 入社後の健康診断とは別
必要な場合でも説明が要る
Q&Aは、必要性が認められる場合についても条件を付けています。
真に必要な場合であっても、応募者に対して検査内容とその必要性についてあらかじめ十分な説明を行った上で実施することが求められます。
説明が先、実施があと。この順序が示されています。説明のないまま健康診断書の提出を求められたなら、その点を記録してください。
説明として示されるべきもの
- どんな検査内容か
- なぜその職務に必要か
- いつ実施するか
- 結果を誰が見るか
※ 上の項目は、Q&Aの「検査内容とその必要性についてあらかじめ十分な説明」という記載から整理したものです。厚生労働省が項目を列挙しているわけではありません。
聞かれたときの考え方
持病・既往歴を聞かれたときの順序
- 答えるかどうかを、その場で決めてよい厚生労働省は「答えなくてよい」とは書いていません。ただし、聞くこと自体を事業主に控えるよう求めています。
- 必要性を聞き返すことができる「その点は、業務のどのあたりに関わりますか」。合理的な必要性があるなら説明が返ります。
- 職務遂行に必要な配慮なら、自分から伝える選択もあるこれは別の話です。働くうえで配慮が要るなら、伝えたほうが働きやすくなることがあります。伝えるかどうかは自分で決められます。
- 聞かれた質問と、説明の有無を記録する説明がなかったという事実も記録です。
- 迷ったらハローワークに相談する提出や回答の前に相談できます。
障害や難病がある場合
厚生労働省は、公正な採用選考の基本の1つ目でこう書いています。
出自、障害、難病の有無及び性的マイノリティなど特定の人を排除せず、求人条件に合致する全ての人が応募できるようにすること。
「応募できるようにする」が基本です。そのうえで、働くうえで必要な配慮を自分から伝えることと、企業が既往歴を把握しようとすることは、方向が逆です。
方向が違う2つのこと
| 誰が始めるか | 目的 | |
|---|---|---|
| 企業が既往歴を確認する | 企業 | 採否の判断材料にする(厚生労働省が控えるよう求めている) |
| 本人が必要な配慮を伝える | 本人 | 働きやすい環境をつくる |
後者は本人が選んで行うものです。伝える時期も内容も自分で決められます。
健康や配慮のことを、間に入って伝えてもらう
エージェント経由なら、企業に直接言いにくいことを担当者から伝えてもらう使い方ができます。
- s
- h
- i
- g
- o
- t
- o
入社後の健康診断とは別
ここを混同すると話がずれます。
採用選考時と、雇入れ後で制度が違う
| 位置づけ | |
|---|---|
| 採用選考時の健康診断 | 厚生労働省が、合理的・客観的に必要な場合を除いて実施しないよう求めている |
| 雇入時の健康診断 | 労働安全衛生法にもとづく制度。事業者が実施する義務があるもの |
| 定期健康診断 | 同上 |
この表は制度の位置づけの整理です。個別の事案での扱いは、労働基準監督署・都道府県労働局にご確認ください。
入社が決まったあとの健康診断を断る話ではありません。問題になっているのは、採否を決める前の段階での把握です。
確認の順序
健康について聞かれたら
- 採用選考の段階か、内定後かを確かめる
- 検査内容と必要性の説明があったかを確かめる
- 職務との対応が説明されたかを記録する
- 口頭で聞かれた場合もそのままの言葉で記録する
- 家族の健康・病歴を聞かれていないか(14事項に明記)
- 迷ったらハローワークか都道府県労働局に相談する
→ 聞かれてはいけない14事項/面接で聞かれたとき/出せと言われた書類/健康診断と既往歴/不採用のあとの応募書類/どこに相談するか
確認に使った一次情報
- 厚生労働省 公正採用選考特設サイト「採用選考時に配慮すべき事項」https://kouseisaiyou.mhlw.go.jp/consider.html
- 厚生労働省 公正採用選考特設サイト「求職者の皆様へ」https://kouseisaiyou.mhlw.go.jp/jobseekers.html
- 厚生労働省 公正採用選考特設サイト「よくある質問」https://kouseisaiyou.mhlw.go.jp/question.html
- 個人情報保護委員会 FAQ Q9-20https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq1-q9-20/
よくある疑問
持病があります。伝えないと入社後に問題になりますか。
健康診断書の提出を断ったら不採用になりました。
Webの応募フォームに健康状態の入力欄がありました。
家族の病気について聞かれました。
職務に体力が必要な求人です。健康診断は当然では。
すでに答えてしまいました。
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